テーマ《 好きな季節 》 12号(04-09-20)掲載 その1/3
「冬」
冬彦
冬は、精神を研ぎ澄ますナイフである。
とりわけ、風の強い晴れた日がよい。風花が舞っているとさらに素敵だ。頬や鼻頭を刺す向かい風に抗って歩いていると、自分が自然によって鍛えられていることを実感する。冬の、心に喝を入れられるような精神性が好きだ。
春夏秋冬、それぞれに良さがある。だから、どの季節がいちばん好きか、という問いは愚問であろう。しかし、スキー愛好家などを除いて、冬を好きな季節とする人はそれほど多くないと推量がつく。
また、四季を人生に譬えて、春を青少年期、夏を壮年期、秋は中年期、そして冬を老年期とすることが多い。冬は、いかにも人生の最終局面のようなイメージを付与されている。しかし実は、冬こそがいちばん若い刻(とき)である。
冬枯れとは、現象的には植物の死を意味するが、あたかも赤子が母の胎内で絶え間ない成長を続けているように、繁茂へと育ち続ける生命を胚胎している現象である。つまり、冬には、外部に現れている死の世界と、内蔵されているとてつもなく豊穣な生命の世界がある。
寒風に向って歩き、褐色の欅(けやき)の、ブラキオサウルスのような裸木を見ていると、春に向って芽吹こうとしている命の胎動を感じる。私は、燃え盛る夏の中にむしろ死を感じ、冬の寒冷に生命の息吹を感じるのである。
(冬彦)
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