三反農家の米作りノート ◇◆◇◆◇
(8) 野焼きの香り
稲刈りが終わった晩秋・初冬の晴れた日に田園地帯を車で走ると、あちこちで白い煙がたなびいている。刈り取った稲藁を田で燃やす野焼きの煙である。その効能は、藁の中で越冬する害虫の卵を殺し、灰を田に戻して酸性化する土壌を中和することだと聞いている。
煙の中身はほとんどが水分だが、稲藁が燃える独特の香りがあって、夕陽にたなびく白い煙は「のどかさ」の象徴に他ならない。色づいた柿とたなびく煙。秋の収穫をやっと終えたこの時期、大人は皆がリラックスして上機嫌になる。稲刈りでは何の役に立たない子供も、両親を手伝って煙に巻かれながら火を付けて回るぐらいのお手伝いはできる。親公認の木登りで柿を取るのを手伝える。
そんな記憶が脳に焼き付いているのか、白い煙がたなびいていると不思議と「のどかな」気分になれる。
ところが、この煙を普通の人は煙たくて臭いと感じるらしい。農地に隣接して新しく建売住宅が数軒建つと、かならず「臭い」「煙たい」と怒鳴り込んでくる人がいて、気の弱い(?)農民は翌年からは遠慮して燃やすのを止める。
法的には、農作物残渣をその耕作地で焼却するのは法律で禁じられてはいない。環境的にも、燃やすことで排出する二酸化炭素は、稲がその年に空気中から固着した炭素の一部であって、水田のトータルでの二酸化炭素排出量はマイナスになっている。しかも、燃やす代わりに、稲藁の腐敗促進のための石灰窒素や、酸性度緩和のための石灰など工業製品を田に投入するのは、決してエコロジカルではない。越冬害虫駆除のために農薬を多用するのもエコロジカルではない。
ただ、残念ながら、よりよい「空気と環境」を求めて(或いは地価が安いので)田園地帯に新居を得た一部の人には、農民の郷愁も理屈も通用しない。下手にケンカして、トラクターの音がうるさい、撒いた肥料が臭い、煙を出すな、、、といちいち苦情を言われ続けると、農作業に行くこと自体が憂鬱になる。
かくして、水田は市民農園と姿を変え、やがて宅地となって、農地がまた減っていく。この冬もまた、近くの水田が数ヶ所なくなるようです。
(11月18日 平田)
《ご報告》
今年のわが家の米の収穫量は対前年比6%upの豊作でした。レンゲ栽培と乾燥牛糞で化学肥料を約半分(窒素換算)に減らし、田植え直後に除草剤を使用して以降は農薬を使用せず(その程度じゃ減農薬とは呼べない?)、味も上出来でした。新米農民のビギナーズラックとは思いますが、割と才能があるのかも... 連載当初から掲載していた農作業時間の記録は、大雨やら台風やらで小刻みな仕事をしている間に途中で途絶えてしまいました。新米ライターとしては失敗です。
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