三反農家の米作りノート ◇◆◇◆◇
(7) 三反農家の採算
10月に入って夜には肌寒さを感じるようになると、ぽつぽつと新米の予約の電話が入ってくる。この時期に予約をくれる人は、30kg入りの玄米を10袋とか、5袋とか、まとめ買いして納戸に保管し、わが家の米は○○さんの米と決めてくれている人たち。なにしろ全生産量が50袋ほどなので、そう何家族にも供給できない。去年買ってくれている人を優先して毎年30袋ほどを玄米で販売し、残りは精米して10kg単位で知人・友人に販売する。
予約の電話があると嬉しい。今年作った米が売れたことが嬉しいというよりは、去年の米に満足して、今年もまた注文をくれたことが嬉しい。
全生産量が玄米50袋といっても農家以外の読者にはピンとこないと思うので、米特有の単位をまず紹介したい。米の計量単位は「合<升<斗<石」と十進法になっていて、液体であれば一升瓶は約1.8リットルの容量単位だが、米は今は一升1.5kgの重量単位、すなわち一石は150kg。そこに一俵=4斗=60kgという米の流通単位が加わり、米価16,000円とかの値決めは一俵=4斗が基本単位になっている。 50袋の玄米は1,500kg=25俵=10石の生産量にあたる。
最近の新聞記事で、日本人の米の消費量が一人あたり年一俵を割り込んだことが話題になったが、従来は一石=成人一人と考えられていた。例えば、加賀100万石は100万人を養える域内生産量で、米の生産量で150kg/石×100万=15万トン。学校の歴史で習った税率「4公6民」で計算すると、15万トンにわが家の売値9,000円/30kgを掛けて、その4割の180億円が租税収入となり、年間予算が180億円の地方政権となる。
ついでながら、映画「たそがれ清兵衛」の主人公 井口清兵衛の禄高は50石とかだったので、50石×150kg×9,000円/30kg×40%で給与所得90万円の地方公務員。後添いの妻朋恵の実家は500石(900万円)。浅田次郎の小説「壬生義士伝」の主人公 吉村貫一郎に至っては、南部藩時代の給金は二駄二人扶持で14俵と紹介されていた。14俵×60kg×9,000円/30kgで、年収なんと252,000円也!これでは脱藩もやむを得ない。
物価レベルや度量衡の違い、複雑な産業構造も無視した、かなり乱暴な計算だが、目安にしておくと時代劇もまた別のおもしろさを発見できる。
さて本題の三反農家の採算だが、昨年の収支はだいたいこんな感じだった。
収入:
米売却 45万円
支出:
租税公課 2万円
水稲苗 4万円
肥料農薬 2万円
動力燃料 1万円
農具等 2万円
修繕費 9万円
減価償却 25万円
収入−支出: 0円
わたしの場合は、ほとんど減価償却を終えた古い農業機械を使っているので、無給・無賃の労働で終わるが、新しい機械を買ったりすると完璧な赤字になる。近所の農家も耕作面積が1ha(一町=10反)以下ならだいたいが同じような状況で、機械の購入と修繕費が収入を上回り、わざわざお金を払って米作りをしているとも言えなくもない。
このままでは通勤電車から見える都市近郊の水田は、世代の交代に伴い、かなり早い時期に消滅する。この辺をもうちょっと考察したいが、今回は度量衡の解説が横道にそれて字数をつかってしまったので、続きは次回としたい。
(10月18日 平田)
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