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 (5) 畦の草刈

 サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジのペンキ塗りの話しをご存じだろうか? 話しの趣旨はこうである。

 1930年代に作られたゴールデンゲートブリッジは鉄で出来ていて、潮風による錆びから橋を守るために、毎年ペンキを塗り直さないといけない。なにしろ全長3kmの長い橋で、しかも強風下での高所作業である。大勢の塗装職人が橋の一端から塗装を始めて、全部ペンキを塗り終わるのに一年かかる。その頃には最初に塗った部分は塗り直しの時期を迎え、職人団はまた最初に戻ってペンキ塗りを続ける。かくして無限ループのペンキ塗りが今も続いている。

 20年近く前に紹介された話しで、私がいた職場ではこの話しをめぐって白熱した議論になった。言い出しっぺは団塊の世代のs課長で、「変化を求めず淡々と職務に励む これこそ僕の理想とする仕事のあり方だ」とストイックな持論を部下に力説すれば、苦労人だがひょうきんな隣の部のS部長が「それはs君、夢ないで! やっぱり新しいことにチャレンジせんと...。失業の心配がないのはええけどな...」と口を挟み、カミュの「シジフォスの神話」やら、ウェバーの「プロテスタンティズムの...」とかまで引合いに出て、「労働とは何か」をめぐる哲学論議にまで発展した。団塊以降の若手はと言えば、s課長のこだわりには全くついて行けず、「毎年、色を変えるとか、柄を入れるとかすればいいのに...」と、無限に続く仕事なんて真っ平御免という意見が大勢だった。世代間、個人間の違いも出ておもしろい議論だった。

 なんで農業にこんな話しかと言うと、炎天下に草刈をしてて思い出した。

 米の生産に直接は関係がない畦の草刈に、6枚で三反の棚田ではなんと! 2.5時間×5日もかかる。刈った草が乾くのを待って集めて燃やすのに更に2時間×4日、土日に半日ずつやったとして、一周回るのにほぼ一か月かかり、終わる頃には最初に草刈したところはずいぶん草が伸びている。草刈機を振り回すだけの単純作業なので、猛暑でフラフラになりながら、この話しを思い出し、海の上の橋の上でペンキを塗る職人や、巨岩を山に押し上げるシジフォスに思いをはせて、「労働とは何か」を考えた。だが、s課長の心境にはまだまだとても辿り着けそうもない。

 草取り、中乾し、穂肥の施肥と、夏場の作業もようやく一段落し、まもなく出穂の時期を迎える。予防的な農薬散布の時期でもあるが、例年、農薬は使わず成り行きまかせにしている。空梅雨で日照をたっぷりあびて、今年の稲は素人目にも力強い。きっと大丈夫とは思うが、猛暑の後に豪雨が続き、今年の天候はやっぱり変。これからが稲の異変をいち早く発見する百姓の「経験と勘」が物を言う段階で、初心者のわたしが苦手とするところでもある。

 やることやったら、後はお天気次第の成り行き任せ。これが農業のおもしろさなんて言うと、まじめな農家に怒られるかも...。

前号からの農作業時間(7月18日から)

畦の草刈関連: 23時間(のべ10日)
施肥、草取り: 5時間(のべ2日)
水の管理: 2〜3日に一回、実働1回1時間未満。

(8月18日 平田)

 

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