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「カセットテープとフロッピーディスク」
市民ライターにとって、これら二つの記録メディアは今でも十分に機能している。小形テープレコーダーとカセットテープは、音声記録媒体として何物にも代え難い。レコーダーは薄くて小さい音楽専用プレーヤー型のものより、ちょっと無骨な軽量力士のようなものがよい。頑丈なうえ、持ち運ぶ際に大変重
宝する。
とくにテープ起こし作業が伴うライティングの仕事をする場合、デジタル系のヴォイスレコーダーなどは使い物にならない。耳と指の微妙な感覚で巻き戻しと早送りを繰り返すから、0と1で割り切るデジタルはアナログには勝てないのである。
また、カセットテープは、耐久性やサイズの点で他のデジタルメディアに負けるかもしれないが、文字通り「好い加減」の大きさと重量で、使い勝手という意味では他に勝るものはない。最近はメモリースティックやらなにやら情報収納量が大きく、やたらに小さいメディアが全盛だが、市民ライターの仕事には“好い加減”さが必要なのである。スマートメディアのように薄くて小さい物体は、すぐに紛失しそうだし、ちょっと日時やタイトルをメモっておくにも、とても使い勝手が良くない。
さて、フロッピーディスクである。最近のパソコンはフロッピーディスクドライブを内蔵していないものも多い。記憶容量の多さからCDやDVDが幅を利かせているが、市民ライターが扱うのは主に文字情報だから、そんなに大容量のメディアは必要ではない。
それに何より、フロッピーの場合、ディスク自体が堅牢なケースに収められているのがよい。CDやDVDは剥き出しのままだから、あまり無造作には扱えないし、サイズも大きすぎる気がする。その点、フロッピーディスクの大きさと厚さはほど好い加減で、そのうえ堅牢だから申し分がない。
カセットテープもフロッピーディスクも、やがては市場から消え去る運命にあるのだろう。しかし、そういうことは止めていただきたいものだ。記憶容量が多ければ多いほどよい、サイズはコンパクトなほどよい、というのは浅墓な考え方で、人間というアナログな物差しに見合ったモノこそが必要なのだ。
ぼくは人間だって、カセットテープやフロッピーディスクのような人が好きである。そこそこ仕事はできるし、滅多なことではメゲナイ。そして、付き合うのになんの気兼ねも要らず、ちょっと古いタイプ。それに、精神的にも肉体的にもけっこうタフな人。そういう人に私もなりたい。
(テイピー・杉山[アイテム評論家]) 2004年9月
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