この「書物」を誉めよ!
『日本民衆倫理思想史研究』
ある古書市を覗いていて、偶然見つけた本である。A5判より心もち大き厚さが5センチほどもあり、重さも、持った感じでは1キロぐらいある。定価9,800円、出版社は明石書店である。著者は、布川清司という学者で、京都府生れ、東京教育大学大学院博士課程中退、神戸大学名誉教授という人物だ。 なにも、本の大きさ、重量、値段(因みに私は6,800円で購入)など、ボリュームを「誉めよ!」と言っているわけではない。もちろんその内容である。
著者は「序」の冒頭で、「本書は我々日本人の先祖といえる中世以降の、いわゆる民衆が人間のあるべきあり方・生き方(倫理)について、どのように考えてきたのか(倫理思想)について初めて概観するものである」と書く。「初めて概観するものである」とは、大きく出たな…とは思わないかい?読者諸氏よ! ところが、である。これはあるようでなかったテーマなのだ。日本のフツーの民衆が、「いまの状態は良くない。もっとこれこれであるべきだ」と考えたその考え方の歴史なんて、どうしたら分かるんダ! 為政者や学者が残した文献は枚挙に暇が無いほどあるだろう。しかし、農民や商人、漁民がそんなことをあんまり書き残しているとは思えない…。 実は、私もこの本をまだぜんぶ読んだわけではない。それを「誉めよ!」と言うアタシも大胆である。でも、パラパラとめくり読みしてみたら、これがなかなか面白そうなのだ。 本書に一貫して流れる基調が「不服従の倫理」であったり、最終章「近未来日本人の倫理思想」のメインテーマがボランティアだったり、およそ一般の歴史書とは異なる風情なのである。早瀬昇・大阪ボランティア協会事務局長の著述からの引用もあるしね。読了した暁には、再び著者を誉めることになるかもしれない…。
(無頼) 2004年4月
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