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■ 「香港50万人デモに寄せて」          ◇◆◇◆◇
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■                平田
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 7月2日の朝、寝ぼけ眼で新聞をひろげた私は第一面の記事に自分の目を疑った。香港で50万人がデモ! ビルの上から撮ったと思われる写真は公園と道路の境界も識別できず、何両かの2階建て路面電車が人波に囲まれて走行不能となって放置されている。

 新聞やネットニュースの情報によると、デモのコースはショッピング街の銅鑼湾から官庁・オフィス街の中環まで。ともかく人が多いということ以外には特に混乱を引き起こすことなく、何十万人の市民が中環にある立法会(香港地方議会)を取り囲んで治安条例案の撤回と董建華行政長官の辞任を要求した。

 大阪で言えば、難波・心斎橋あたりの公園(そんな大きな公園はないけど)を出発して御堂筋を北上、大阪市役所を取り囲み、中之島公園か中郵前で流れ解散、というところだろうか。デモコースとなったすべての通りは人で埋め尽くされ、混乱を避けるためにデモルートにある地下鉄の駅はすべて閉鎖、電車は停車せずに通過したらしい。

 50万人のデモってどんな人数だろう。

 アメリカ公民権運動のクライマックス、キング牧師が "I have a dream …." と演説した63年のワシントン大行進は25万人、60年安保闘争での国会前の座り込みが23万人、沖縄での反基地闘争で10万人、いずれにしても10万人を超える市民のデモは尋常ではない。

 大方の事前の予想では今回のデモの規模は多くて5万人程度、9日に予定されていた治安条例は与党の賛成多数ですんなり採択されるはずだった。ところが、圧倒的な市民の反対を前にして採決は延期その後、董建華行政長官は9月6日に条例の撤回を発表した。

 英国の植民地支配、英中両国首脳による返還合意、その後起こった89年の天安門事件(この時には香港市民100万人が抗議デモに参加した)、97年7月1日からの中国への復帰。香港市民はこれまで自分たちの運命を頭ごなしに決められてきた。今、自治を取り戻す歴史的な一歩が確実に始まった。

 イラクで始まりイラクで終わりそうな今年の国際ニュース。暗い話題の中の一筋の光明として、リレコラ一番手として香港をとりあげた。現場にいなかったのがとても残念!

 それにしても、御堂筋をうめつくす50万人デモがどんな感じなのか、どうしてもイメージできない。そんなことを考えていたら、11月に御堂筋で行われる阪神タイガース優勝パレードの予想人出が50万人だという新聞記事が目に入った。大阪では50万人のデモはたぶん僕が死ぬまでないだろう。だけど、どんな人出なのかやはり気になる。

<ちょっとだけ解説>

 7月1日は97年の香港の中国復帰から6周年の記念日。香港では北京の要人を招き記念式典が挙行された。50万人デモは香港基本法第23条に基づく「国家安全条例」の採択に反対するために行われた。第23条の条文は下記の通り。

「第二十三条 香港特別行政区は、祖国を裏切り、国家を分裂させ叛乱を煽動し、中央人民政府を転覆させ、或いは、国家機密を盗み取るいかなる行為をも禁止し、外国の政治組織或いは団体が香港特別行政区で政治活動をすることを禁止し、香港特別行政区の政治組織或いは団体が外国の政治組織或いは団体と関係を結ぶことを禁じるよう、自ら立法しなければならない。」(拙訳)

 香港の中国復帰を前にして北京で定められた「香港基本法」は「一国二制度(香港の資本主義制度を維持する)」や「港人治港(香港は香港人が治める)」しかもそれを「50年変えない」と明文化した中国の国際公約としての意味合いを持つ中国政府の法律で、香港の小憲法とも呼ばれている。基本法では香港市民の生命・財産の保護や、基本的人権の保護も明記され、英国統治時代からは決して後退はしないという中央政府から香港市民への意思表示でもある。

 ところが、89年の天安門事件の発生で北京の状況が一変した。香港が反中央の拠点となることを恐れた中央政府が、最初の案では簡単な条文であった第23条に大幅な変更を加え、当初の思想からはかけ離れた条文として制定してしまった。

 董建華行政長官は昨年から条例制定に向けて市民の意見を募集し、12月には条例制定に賛成する市民5万人の集会を開催。今年2月に条例案をとりまとめ、7月9日に立法会で審議開始、即可決の運びであった。

 今回の事態を重視した北京政府は,7月の審議延期決定の後に董建華行政長官を北京に呼び寄せて協議し、引き続き董建華氏を行政長官として支持することを表明。その後9月6日に董建華氏によって条例案の撤回が表明された。

 条例制定に反対する香港市民は決して反中国ではない。香港という都市が中国なしには成り立たないことをよく知っているし、多くの香港市民はこれまで、中英が対立すれば反英、中日が対立すれば反日の立場に立ってきた。彼らは中央から与えられた50年の期間、香港が引き続き発展し、その間に中国の民主化が進んで「一国二制度」が意味を持たなくなることを望んでいる。その頃には日本と中国の国境すら意味のない時代になっているかも知れない。中国政府の忍耐力が試されている。

(ひらた)

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