お薦めの本 この一冊
『あなた自身の社会:スウェーデンの中学教科書』
アーネ・リンドクウィスト、ヤン・ウェステル、訳:川上邦夫 (新評論2200円+税)
■答えのない教科書■
同世代(二十代)の人と話していると、ときどき、「社会」という言葉の使い方がかみ合っていないなと感じることがある。彼/彼女らも、顔や名前が思い浮かぶような範囲までのコミュニティは想像できるのだが、その先、いわゆる地方自治体や国、世界となると、実感がわかない。もちろん、NPO/NGOが持つ公共性の概念もおぼつかない。だから、社会の授業で教わった知識を知っているか知らないか、新聞などが伝えるニュースを知っているか知らないかというレベルで話がストップしてしまうことが多い。
さて、この本。日本で言えば中学校に相当する学年の、社会の教科書を翻訳したものである。内容は「公民」(政治・経済)に一番近いが、「家庭科」的な側面や、「道徳」的な側面も感じさせる。ただ確実に言えるのは、日本ではこのような教科書にお目にかかったことがない、ということだ。
日本では社会科はただの暗記科目という印象が強いが、この本では、いろいろなレベルで(家族やクラブといったレベルから、コミューン(地理的、行政的地域)や国といったレベルまで)、そこで起こりやすい人間関係のトラブルやジレンマ的なことについて、学生に考えさせ、比較させ、討論させるというスタンスとなっている。そのための材料として、賛否両論あわせて、いろいろな視点を与えてくれる。
いろいろな視点と言っても、それは学者的な“上から”の意見の併記とは全然違う。「与えられた視点の“中で”考えろ」という感じではない。当事者の声、十代の声を併記することで、いろいろ想像力を“膨らませる”、そんな本の作りになっていると思う。
最後に、私が特に印象に残っている箇所を紹介して終わりたい。
「しかし当然のことですが、警察官も法律違反などの間違いを犯します。」(p.24)
前後の文脈をカットして紹介するのはあまり良いことではないが、それにしても、教科書で初めてこのような表現を目にしたとき、私は心底ビックリした。
本河知明 2004年6月
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