理想の力 ―コスタリカの場合―
本河知明
『軍隊をすてた国』という映画がある。中米の国コスタリカを紹介するドキュメンタリーだ。この国は内戦終結をきっかけに軍隊廃止を宣言、一九四九年に公布した憲法で常備軍廃止を明文化した。また一九八三年には、積極的永世非武装中立宣言も行なう。
でも、中南米と言えば、あまり治安の良くないイメージがある。まわりの国々では内戦が絶えない。非武装中立で国民の生命を守ることができるの??
コスタリカの平和のヒミツ。私が思うに、それは「理想の力」だ。理想を掲げ、それを現実にすること。それこそがコスタリカ最強の防衛手段なのだ。
では、「理想」とは具体的に何か?
まず一つ目はやっぱり、軍隊を持っていないこと。軍隊を持っていないんだから、「大量破壊兵器」なんて持ってはいない。他の国から危険と思われることがないわけだ。
二つ目は、民主主義と人権を徹底的に尊重すること。それらは教育現場でしっかりと教えられる。
『民主主義的じゃない社会は平和でないということは当たり前。だって、自分の意見をちゃんと言えないってことは、圧力があるってことでしょ? それは人権侵害でもあるじゃない。それから、環境が悪いと社会も悪くなるでしょ? だいいち、環境破壊は資源破壊でもあるから、自然の破壊が進むと少ない資源をめぐって争いが起きるじゃない。だから、環境破壊もちゃんと考えなきゃね』
(岩波ブックレットNo.575『平和をつくる教育』より引用。)
この発言は、なんと十歳の少女のもの! また、対話を重視する教育そのものが、民主主義の実践にもなっている。必ずしも教師が結論めいたことを言うわけではない。生徒たちが、自分たちの体験を対話を通じて共有する過程で、自然に結論に達するのが一番だと考えられている。
もちろん「独裁者」が現れることがないよう、選挙に関して、憲法でいろいろと工夫されている。たとえば、最高選挙裁判所によって仕切られる選挙は、第四の権力と言われるほど、三権から独立して行なわれる。また、大統領の三選禁止(一期四年)、議員は連続して選出されない、などなど。大統領選は、子どもたちと一緒に、国を挙げてのお祭騒ぎになる。
三つ目は、積極的な外交政策。決して自国さえ良ければいいってわけではない。内戦を続けてきた中米各国に停戦を呼びかけたり、また、憲法三十一条では、「政治的理由で迫害を受けているすべての人の避難所である」とも謳っている。こうした平和外交を積極的にすすめる国を、いったいどこの国が攻めてくると言うのか? もし仮に攻められたとしても、国際世論がコスタリカを見捨てるわけがない。
以上、簡単にコスタリカを紹介してみたが、もちろん政治的問題がないわけではないし、タテマエ的な面がないわけではない。
しかし、子どもたちが平和や民主主義を語ったり、政治を楽しめるというのは、すばらしいと思う。子どもにも理解できる政治、筋が通っていると感じられる政治を日本で実現させるのは無理なのだろうか…。
(本河)
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