インディアン嘘つかない
平田泰史
この数ヶ月のジョージ・ブッシュのアメリカを見てて、西部劇時代のアメリカに逆戻りしたような錯覚に陥っている。もしかして錯覚なんかじゃなくて、テキサス出身の大統領は、本気で西部劇の英雄になったつもりなのかも知れない。
例えばファールジャでは、金目当てに軍に雇われた4人の白人がインディアン支配地域に潜入して捕まって虐殺される。大統領も議会もこぞって犯人の逮捕と処罰を現地司令官に厳命し、現地司令官は騎兵隊の大軍を率いて集落を取り囲む。圧倒的な武力を背景に騎兵隊が出す条件は、「犯人」を差し出すか、或いは、一族皆殺しか。大軍は交渉のための脅しなんかじゃない。本当に虐殺が始まった。70年頃に上映された映画「ソルジャーブルー」は、確かこんなストーリーではなかったか。
一方のナジャフでは、別部族の圧政から解放してやったはずのインディアンが、こともあろうに白人に反旗を翻す。侵攻してきた白人のあまりの暴虐ぶりに、みんなの尊敬を集める部族長ですら血気盛んな若いインディアン達の怒りを抑えることができない。あちこちで騎兵隊が襲撃される。どうも白人襲撃を煽っているのは跳ねっ返りの指導者サドル師らしい。こいつを殺せば抵抗は収まる。軍司令官は判事に掛け合って逮捕状を取る。早速、似顔絵入りの手配状が酒場に貼られる。似顔絵の下には「DEAD OR ALIVE」の文字。
もう私たちは「テロに屈するな」という呪文に自ら縛られるの止めにしよう。今、イラクで進行しているのは「民主主義 対 テロリスト」の闘いなんかじゃない。19世紀のアメリカ大陸でインディアンが虐殺され迫害された歴史が、ブッシュによって繰り返されている。
現代の闘いの当事者は、一方はジョージ・ブッシュとオサマ・ビン・ラディンの超強力タッグチーム。自分の神と価値観を絶対とし、従わない者は暴力でねじ伏せる。彼らはともかく強い。虐待や殺戮を何とも思わず、屈辱と恐怖と欲望により人を支配する。それに対抗するのは、家族を守り平和を願う普通の市民。自分の文化は大切にするが武力で人に押しつけたりはしない。しかし追い詰められれば猫を噛む勇気までは失ってはいない。
ファルージャの虐殺や人質事件のニュースに、無力感に苛まれながらピカソのゲルニカの絵を思い浮かべたり、「ソルジャーブルー」の映画を思い出したりしてたら、くしくも、アメリカインディアンの平和の祈りの儀式が6月21日の夏至の日に富士山麓で開催されるとの案内がメルマガで届いた。スー族と呼ばれるインディアンの聖なるパイプの守り人、ラコタ族のチーフ・ルッキングホースが2001年アイルランド、2002年南アフリカ、2003年オーストラリア、そして今年の日本と、世界の東西南北から選ばれた聖地で「私につながるすべてのものに」伝統的な祈りをその地の先住民と共に捧げる。(World Peace & Prayer Day 2004 Japan 詳しくはhttp://www.wppd2004.org/index.html)
そう言えば子供の頃は、「針千本飲ます」と指切りするより、右手を挙げて「インディアンうそつかない」と誓う方が仲間内では堅い約束だった。罰を決めるより、名誉を賭ける方が固い約束だった。自分と相手に対してだけでなく、「自分につながるすべてのもの」への誓いだと子供心に分かってたのかも知れない。自分が発する言葉の重みを、西部劇のインディアンから教わった。
(平田)
注:
インディアン、アメリカインディアンの呼称は、北米大陸の先住民が自らを呼ぶ呼称として使っているので、それに従いました。上記サイトで販売しているULALIのCDはお薦めです。女性三人のアカペラコーラスグループによる歌唱です。輸入盤で歌詞カードがないのが残念です。
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