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    寝たきり老人への処方せん

ゆう

 叔母が脳硬塞で倒れて入院してから14日目。左片麻痺があり、点滴が続いてまだまだ体の自由が利かなかった頃のこと。病院の医療相談員が老人保健施設のパンフレットと申込書を持ってきて、叔母に入所申込みのサインを求めた。叔母は何もわからずに、「よろしくお願いします。お世話になります」と言ったようだ。後でそのことを知った私は驚いて、苦情を申し入れた。いくら受け答えがはっきりしているように見えても、その施設が何かもわからない上に、環境の変化で多少のぼけもある年寄りのこと、よく理解もできずに、誰に対しても「よろしくお願いします」と言ってしまうのだと説明して申し込みは撤回した。

 その3日後、主治医から話があった。「82歳と高齢でもあり、これ以上はよくならないので、来週には退院してほしい。身内が引き取るか、無理なら系列の老人保健施設を紹介する」。腕も上がらない、ベッドで体を起こすのが精一杯で、おむつをつけたまま。まだ本格的なリハビリも受けていないのに、即退院と言われて、大いに戸惑った。

 あちこちの専門家に叔母の様子を伝えて、相談してみた。「まだ医学的なリハビリが必要な時期だし、病状を聞く限りでは回復の見込みがあるのでは」というのが、大方の意見だった。急性期治療を過ぎた患者を入院させていても儲からないので、ベッドを回転させたいという病院の事情があるらしいこともわかった。私は主治医にもう少しリハビリを続けたいという意向を伝え、叔母のリハビリを引き受けてくれる病院をさがした。

 幸い、リハビリ専門病院の入院許可がおりた。家族も参加してのリハビリが求められるしんどさはあったが、転院後、叔母は見違えるようによくなっていった。リハビリを始めた当初はベッドから降りることも危なっかしい状態だったのが、4カ月後の退院時には杖もなしで歩けるようになり、編み物や縫い物ができるほどに、手指の機能も回復した。叔母自身のがんばりや、専門性の高いスタッフの努力があってこそとはいえ、身内でさえ、そこまでよくなるとは想像もしなかった。

 そして今、思う。最初の病院で医者の話を鵜呑みにしてあきらめていたら、叔母はおそらく、本当に寝たきり老人になっていただろう。何日か寝込んだら、体が回復するまでしばらくフラフラするという経験は、誰にでもあると思う。ましてや年寄りのこと。ちょっと寝込んだら、筋力もぐんと弱っている。ろくにリハビリも受けないままで退院したら、当然のように車椅子の生活になり、足腰の力もつかず、それが日常生活になっていく。医者の言うとおり、そのまま寝たきりで人生を終わっていたかもしれない。

 医療は常に完璧ではない。とはいえ、患者自身も主体的に情報を集め、自ら選んでいくことの大切さを改めて思い知らされた。セカンドオピニオンを求め、専門家の意見を聞くことが、人生を左右することもあるのだ。

(ゆう)

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