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市民ライターのキモ 〜 その真実と技術
                     
                                     吐山継彦
                             

(12) 取材のテープレコーダーを止めたあと…

●京都大学の院生を取材した。半導体やメモリー研究の傍ら、プロボクサーとしてのライセンスを取得。4回戦ボーイで、プロデビューすることになっている。22歳。見かけは普通の青年である。学部3回生の時に、京大の医学部の先輩学生がボクシングでプロデビューを果たした、というマスコミ報道に接し、自分の一、二回生の時のぬるま湯に浸かったような大学生活を反省。一念発起でボクシング部の門を叩いた。それから、闘争本能に目覚め、拳闘にのめりこむ。

●書かなければならない原稿枚数は3枚1200字なので、1時間ちょっとの取材で十分書く材料はあると思った。ただ、素材がおもしろいわりにはインパクトのある言葉が引き出せなかった。3回生にもなってボクシングを始めた動機が先輩学生の活躍というのも、あまりピンと来なかった。ボクシングの魅力を訊ねても、「本能ですかね」というような答えが返って来るばかりで、なぜ京大の院生が4回戦でプロデビューしなければならないのか、という動機づけにイマイチ納得できなかったのだ。

●このような、インタビューする側の消化不良感はよくあることである。取材する側にもされる側にもその時のコンディションや気分というものがあるから、1回だけのインタビューでいつもいつもエクサイティングな話が聞き出せるわけではない。

●取材が終わってテープを止め、練習風景を撮るためにリングのある建物に向かった。その途中で四方山話をしている時に、「プロになろうと思った時、本当に京大をやめようと考えました」と彼がつぶやいた。この一言で、彼のボクシングへの思いがひしひしとこちらに伝わってきた。

●こういうことはよくあるので、市民ライターたるものテープを止めた後にもインタビュイーとの会話を継続しなければならない。取材というと、慣れていない人はどうしても緊張して構えてしまうものである。しかし、1〜2時間の取材中に形成されたラポール(親和関係)の結果、こちらが取材終了を伝えた途端、相手の気が緩み、本音や大事な情報がポロッと出てくる場合があるのだ。

 

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