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市民ライターのキモ 〜 その真実と技術
         2005年7月20日
                              

(18) 「読者は誰か?」ということを常に意識する
                                      吐山継彦
                                                
                               
▼正岡子規の随筆『病牀六尺』を読んでいて、次のような箇所にぶつかった。「人に見せる為めに書く文章ならば、どこ迄も人にわかるように書かなくてはならぬ事はいふまでもない」。「どこ迄も」とか「いふまでもない」とか、ものすごく断定的な物言いだが、子規がいかに独り善がりの文章を嫌悪していたかが分かる。

▼その一つ前の文はこうなっている。「実地に臨んだ自分には、こんな事は書かいでもよかろうと思う事が多いけれど、それを外の人に見せると、そこを略した為めに、意味が通ぜぬような事はいくらでもある」。自分は実地に体験していても、読者は未体験なのだから、「これでもか」というぐらい筆を尽くさなければわからない、というのだ。

▼子規の文章観は、「写生的な文章は精密に叙すべし」ということなのだが、その前提として、「人に見せる為に書く文章ならば」という条件がついている。つまり、日記や内面の詩的吐露ならいくら独善的な文章でもかまわないが、人に読んでもらうための文章は「分かるように書く」のが当たり前だと言っているのである。

▼このことは言うまでもないことで、他人に読んでもらうつもりならば、他人に読んでもらえるように書くのが当然だろう。しかし、これがなかなか難しいことなのである。どうしてかと言うと、「他人に」という場合、どういう他人を想定するかによって、ずいぶん中身が違うからだ。

▼例えば、「ミッション」や「エンパワーメント」という市民活動では当たり前の外来語は、明らかに英語を習いたての中学生や、戦争中に敵性語として英語を教えられなかった世代にとっては、難しいものだろう。しかし、ある層の日本人にとって、ミッションを「使命」と訳されたり、エンパワーメントを「能力を引き出すこと」と言われるより、英語そのままのほうが分かりやすいし、ほかに言い換えができないイメージを持った言葉なのだ。

▼なんでもかんでも易しく書く、というポリシーは、それはそれで立派だが、そこに固執する必要はない。例えば、西田幾多郎の哲学の解説書を中学2年生に分かるように書くという場合は対象が中学2年生もしくはそれに準ずる読者の場合であって、東洋哲学専攻の大学院生以上の研究者向けに書く論文とは自ずと書き方が異なるはずである。

▼最近よく耳にするのは、「外来語、カタカナ語が多すぎる」との主張である。確かに、クロス・ファンクショナル・チームと言われてパッと理解できる読者は少ないかもしれないが、日産のゴーン革命に興味のあるビジネスピープルなら知っていて当然の言葉である。要は、「読者は誰か?」ということを常に意識し、その人たちに向かって分かりやすく書くことだろう。ただ、間違ってならないのは、論理的でない文章は、たとえすべての漢字にルビを振り、できるだけ外来語を減らしても、決して分かりやすくはならない、ということである。                                                

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