市民ライターのキモ 〜 その真実と技術 2005年2月20日
(15) 作品を世に出す責任
−デジタルの便利さと落とし穴−
きさらぎゆう
「あなたの理想の上司はどんな人?」というアンケートの回答をもとに原稿を作る作業をすることになった。人気タレントの名前が並ぶ。岩城晃一、明石屋さんま、佐藤浩一、大杉蓮…。ここまで読んであれっ、おかしいと思った読者もあるかもしれない。そう、みんな字が間違っている。あんたら、ファンとちゃうんかいなとつっこみたくなったが、全部プロフィールを当たって確認することになった。ほんと、校正をあなどってはいけない。自分が痛い目にあうだけでなく、他人に迷惑をかけることにもなる。
昨年末、広告代理店に勤める友人が制作にかかわったカレンダーで、7月の暦に誤植が見つかった。原因はデザイナーが玉(日付けを表す数字のこと)をコピーペーストした際に起こったミスだったが、発見されたのは各方面に郵送された後のことで、刷り直しと再送で約100万円の作業になったらしい。デザイナーのギャラも、ゼロにはならなかったが、大きく引き下げられた。
手作業の編集と違い、デジタル編集は、予測のつかないミスを引き起こす。気をつけないと思っていたのに、私もやらかしてしまった。あるパンフレットの最終校正。「ボランティア」の「ア」が1文字欠落していたので挿入する指示を入れ、確かに直ったと確認して印刷を進めたら、なんとその原稿のご近所に、「ア」が余分に入ってしまっていた。これもデザイナーのうっかりミスだったが、見落としていた。急きょ製本にストップをかけて16ページのうち8ページ、印刷機1台分刷り直しの手配をして、約10万円の出費と相成った。
○数度の版下校正を経て、何度も繰り返し読んだ原稿は終盤になるとつい、 「訂正箇所が直っているかどうか」だけ確認してしまいがちだが、これがきわめて危険。
○メールで本人が書いた原稿なら、編集する際にテキストを打ち直す必要が なくて手間が省ける。でも、本人が書いたその内容が間違っていることもあ るし、本人が確認してOKといっても、気づいていないだけのこともある。 ○とくに固有名詞や連絡先は慎重に確認しないと、電話番号の間違いなどは 第三者に迷惑をかけることになる(私は電話をかける、テストメールを出すなどで確認するよう心がけている)。
○印刷物の版下や、ウェブサイト、メールマガジンなどの編集で、前回も使
ったフォーマットに今号の原稿をコピーペーストする際に、中途半端に前の
データが残ってしまったり、版の更新を重ねるうちに、古い版のファイルを
開いて訂正した、という失敗も少なくない。
市民ライターが活躍する場面には、「書く」以外の諸々の作業がついてまわることが多いと思う。現に、この市民ライター通信もメンバーが協力して編集発行している。短い原稿であっても、印刷して配付はしなくても、インターネットに乗ればあっという間に世界中の人がアクセスできる情報源となる。気軽に送るメールでさえ、気づかぬうちに公開メーリングリストなどに転送されると検索エンジンでひっかかることになる。いったん手を離れたら、原稿は一人歩きするものだ。あなたの作品である原稿や情報を世に出す前に、今一度、慎重に校正し、点検してほしい。自戒をこめて。
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