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■         錺 雅代 (なにわ語り部の会)       ★彡☆彡 
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■ おはなしを語って、心のふれあいを ■

「むかし むかし あるところに……」
 いくつもの瞳がいっせいにこちらを注目する。
 いつのまにか聞き手はうなずき、大きな声で笑い、ときには涙ぐみ、そして主人公と一緒に旅に出て冒険をする。
「あー、おもしろかったー」「あそこで、かわいそうだったね」「また、聞かしてね」「心が安らぎました」いろんなことを言いながら去っていくうしろすがた。それを見送りながら、上気した頬に手を当てる。

 多くの国、多くの民族には、固有の歴史や言い伝えがある。文字を使った伝え方もあるが、耳を澄まして、その場に居合わせたものたちと物語を確認し合う。強い者に憧れ、悪い者に憤り、弱い者に同情し、貧しい者を思いやる。そうして、人間として生きていく勇気と智恵、情などを心に刻みつけていく。

 ガスも電気もない時代の夜は真っ暗。人は日が暮れる前に仕事からもどり、食事をし、暗くなれば寝る。その寝る前のちょっとした間、心を許したものたちがひとつの焚き火を囲む。年かさの者が語る昔の話にしばし耳を傾けて、一日働いた心をほぐす。大人も子どももチロチロと揺れる炎を見つめ、耳を澄ませば、じいさま、ばあさまの声はあたたかい。人びとは安心して眠りにつき、夜が明ければまた働く。

 いつからか、人びとは夜も昼も働き、食事時間が家族でもまちまちになり、子どもたちまで時間に追いかけられるようになった。世代間の『断絶』ということばが当たり前になり、仲間うちでことばが符牒化し、ことばもヴィジュアル化となって文字離れ読書離れ。文化の形もすっかり変わって人びとは個々に『癒し』を求める。

 太陽を司る女神が天の岩戸に籠もった神話は日本の独自のものと思っていたが、世界中にいくつかの類話があることを知った。ワニザメをだます因幡の白ウサギは、アフリカにもアジアにもいた。ガラスの靴を落としたシンデレラは、ウォルト・ディズニーが脚色したもの。もとの話はそれこそ世界中に散らばっていて『粟ん福・米ん福』は、日本版のそれ。それがさらに、伝播のされかたで少しずつ異なって各地で採集されているところがおもしろい。文字になった昔話を読みあさりながら、思索にふけるのもいい。

 今年も、大阪ボランティア協会主催で「お話の語り手講座」が開かれている。ことしで27回目を迎える人気講座だ。10回目の修了発表会は、一般に公開されていて、参加者の家族・友人・かつての受講生たちが集う楽しいものになっている。
 昔から伝えられた民話やおはなしを、地域の図書館や学校、各種施設、幼稚園、保育所で、というような場で語り伝えるとき、一つのおはなしを縦糸にたとえれば、語り手が横糸になる。それは語る人の持ち味、育った地域、考え方、声の調子などでいかようにも色づけされて、織り上げられていく。
 
 講座の修了生たちは23年前に「なにわ語り部の会」をスタートさせ、毎年会員を増やしながら、活躍が注目されるグループに育っている。十人十色、一つのおはなしでも語る人が違えばまた雰囲気も違う。それが楽しい。
 仲間同士のふれあい、聞く人と語る人との微妙な心のふれあい、新しい仲間との出会い。民話やおはなしを通して、たくさんのつながりができる。民話やおはなしは、現代に生きる人びとをつなぐ力もまた持っていると言えよう。 

 

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