連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(9)
かざりえみこ
2004年6月20日
鳥の巣―都会の事情
春もまだ浅い季節に、韓国のソウルでおもしろい光景を見ました。
はだか木の街路樹を車窓から見るのですから木の名前を確かめられません。
空高く梢がのび、枝にはなにやら黒いかたまりがあります。ん? こんな高速道路沿いに? まさか? と思っているうちやはりそれは鳥の巣でした。
ソウルの市内に入っても、郊外と同じように街路樹に鳥の巣がありました。おおらかに枝を張り、1本の木にひとつ、ふたつと巣を置いては空高く伸びているのです。
あくる日、カササギという名前を現地の人から聞きました。白と黒色の割と大きな姿で私の前を歩くのを見て、鳴き声も聞きました。そういえば、天の川にカササギがかけた橋を渡って織姫と彦星はたなばたの夜に逢うのです。昔話にありました。韓国ではカササギは縁起の良い鳥とのこと。思う存分巣をかけるように、木の枝を切らないのか、街路樹を大切にするから巣をかけるのか、どっちが先なのでしょう。駆け足スケジュールだったので、確認しないうちに帰ってきました。
それにしても日本の街路樹は本当にかわいそうです。
電線に引っかかるとわかる場所にいずれは高木になるケヤキやクスを植えています。そして2、3年もしないうちに定番の枝打ち作業を始めます。中央分離帯に植えた灌木にはだれも水をやることができません。だからうんと水をほしがる花の時期に、ヒラドツツジなどは無惨にも枯れてしまうのです。 翌春に、枯れ木の掘り起こし作業をして、こんどは何を植えるのかと見ていたら、トラックから降ろした苗がまたもヒラドツツジでした!
公園のアキニレの枝に冬の間、鳥の巣が見えました。ヤマモモの木にはキジバトが巣をかけました。木の芽が出る頃に、役所の人たちが高所作業車を入れて、どの木もさっぱりと切っています。あわてた私が鳥の巣があるから、と申し出ましたが、答えは、自然に枝が枯れて落ちてくるし、それで人にケガをさせたらいけない、切る決まりになっている、でした。キジバトも、春先に珍しい声を聞かせてくれた小鳥もどこかに行きました。
ゴツゴツした幹からも、季節が来れば溢れるように新芽が吹き出し、今は緑が豊かに風に揺れています。風はまもなく梅雨に入るような匂いがします。目と耳と鼻を働かせながら、私は韓国で見たカササギの巣を思い出しています。
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