連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(34)
かざりえみこ
2006年7月20日
さむーいはなし 真夏の枯れ野
私のふだんの移動手段は自転車です。6月初めごろ、自転車に乗っていて得体の知れない不快な匂いを感じました。通い慣れている細道だったので、自転車を降りてあたりを眺めました。数分もしないうちに、目の前のJR線路の内側に生えていた夏草が異臭の発生源とわかりました。
5月には勢いよく伸びるヨモギの背丈に見とれて通ったところですが、それが見るからに元気がなく、立ち枯れ状態で腐敗した臭いを放っていたのです。たしか去年もこのあたりでこんな情景を目にしましたが、これほど広い面積ではありませんでした。どんなに熱湯をかけてもここまで萎れることはないはずです。私は「除草剤」と判断しました。ちょっと間違えば人を殺すこともできる薬品です。私はその方面の知識がないことをとても悔しく思いました。
あれから一ヶ月して久しぶりに例の細道を通りました。向こう側の線路沿いは丈高い夏草が風にそよいでいました。こちら側にはかつては勢いよく繁っていたヨモギやセイタカアワダチソウ、ハルジオンなどの茎だけがまるで冬野のように続いています。いいえ、冬の野なら、自然な枯れ草色ですが、そこに立つのは真っ黒な細い棒ばかり。曲がったり折れたりしながら。
自転車を走らせながら見つけた他の除草剤散布あとでは、取り除いた草あとに、そろそろと季節違いな新芽が伸び始めていますが、ここはいまだに草一本生えていません。
最近は除草剤が以前より格段に安全になったとはいうものの、扱いには十分の注意が必要であることは常識です。「手袋や防毒マスクをして作業をする」と農家の人に聞きました。できれば使いたくないけれど、とも言いました。除草剤と聞くだけで、何年たってもベトナム戦争で使われた枯れ葉剤を連想します。
あんな所にいったい誰が撒くのでしょう。ホームセンターに行けば、身分証明なしで売ってくれるものもあるとか。悪意であれ、善意であれ、後片付けの形跡もなく、かすかにまだ異臭が漂う所で暮らす人びとへの健康に害がないものでしょうか? 地中深く染みこむ雨水はどこに行くのでしょう。
汗をかきかき、寒々しい光景を見て、私はどこに向かってに何を言えばいいか考えあぐねているのです。
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