連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(30)
かざりえみこ
2006年3月20日
見えにくい人もいると想像する力
ふしぎな体験をしました。
視覚障害者とは言わないまでも、視野がかなり狭くなっている人がいます。仮にPさんと言いましょうか。左右とも約90度の視野が欠ける程度だと、障害認定の範囲には入らないとPさんから聞きました。
ある日、初めて訪れた街をPさんと歩いていました。雑踏に近い状態でしたから、並んで歩くよりもPさんの後を歩いた方が左右を確認できていいと私は判断しました。道路にはみ出した商品につまずかないよう、引っ掛けないようPさんもかなり気をつけて歩いていたようです。と、いきなり横から若い女性が飛び出してきました。この角度はPさんには死覚になります。二人はまともにぶつかりました。
Pさんは一瞬なにが起こったか、と言うように立ちつくしました。
するとその女性は「キャーッ」と大声を上げて、「なにすんのよ」と言うのです。そのひと声で立場がまったく逆転しました。被害者のはずのPさんが、一転、おおぜいの視線にさらされて加害者の立場に立たされているのです。雑踏の人びとはPさんに注目します。そして女の子にぶつかっていってイヤラシイおやじだ、とでもいうようにジロジロと見て通りすぎていきます。
こんな場面もありました。キャリーバッグを引いてくる年配の女性が、Pさんの前を横切りました。通りすぎるのを待って足を出したPさんには、その女性のあとから「ついてくる」キャリーバッグが目に入りません。後ろから私は、Pさんを思いきり引っ張って、事なきを得ました。
100%視覚障害の知人がいます。白杖をたよりに歩いていて、前を横切った自転車にその大切な白杖を折られてしまったという話をしてくれました。憤慨しながら聞いていた私に、知人はポツリと「このごろ、よくあるんです。だから、カバンにはいつも折りたたみの予備を入れてますよ」とも言いました。
目が見える人は、日ごろどれだけ見えない人のことを考えているでしょうか? 私などはほとんどノー、と言ってもいいくらいです。何とも乱暴なものですね。身体の不自由な方は一見してわかりますから、こちらも気をつけますが、目はわかりません。
これからは、街には目が見えにくい人もいるということを想像するくらいの余裕を持って歩きたいと思いました。
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