連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(24)
かざりえみこ
2005年9月20日
彼岸花」花と根と
彼岸花の季節です。暑いあいだ土の中で眠っていた花芽が、いっせいに伸びて秋分の日前後(彼岸の時期)に咲くのは、ほんとうに不思議な気がします。太陽の角度? 空気の温度? 日照時間? 一枚も葉がないのにどうしてこれらを感知して芽を出すのでしょうね。
彼岸花は曼珠沙華(まんじゅしゃげ)ともいいますが、地方によっては、シビトバナ、ユウレイバナ、ジゴクバナなどと呼ぶようです。郊外に行くと、田んぼや畑のあぜ道が真っ赤に染まります。心の原風景に出会ったような、なつかしい思いで見とれてしまいます。でも数日後にはもう花の面影はありません。「ハミズハナミズ」という別名は「葉見ず 花見ず」という字を見て納得。花が消えてからおもむろに葉が出て、寒い季節に青々と繁ります。
韓国では「花は葉を思い、葉は花を思う」ということから「相思華」(サンチョ)と呼ぶそうです。うなずけますね。
園芸店では「リコリス」の名で、白花・黄花・薄赤花種の球根が売られています。わが家にも白花種があってよりいっそう、ユウレイバナを実感します。彼岸花の学名はRYCORIS RADIATA。ラジエータが花の形を連想させて面白いですね。
ところで彼岸花には毒があることで有名ですが、一方では救慌食として、いざというときには、すぐに大量に手に入るよう、田畑のあぜに植えたようです。タネができないうえに、増えにくい球根が減ってはならないから、『毒』を強調しました。守ってきた証拠に、人里離れた野山では見かけません。
村田喜代子著『蕨野行』文藝春秋刊 には、天候が不順なために食糧難となった。野に入った(一種の棄老・・・詳しくは本書をごらんあれ!)老いた人たちは里人の目にとまる前にいっせいに彼岸花を掘る。「・・・川水を汲んで、花の根を漬けてさらす。毒花なれば・・・」とあって興味深く読みました。
彼岸花の毒はリコリンというアルカロイドで水溶性であるために、よく水にさらせば残ったデンプンが食用になるそうです。
今でこそ溢れるほど食べ物がある日本ですが、ちょっとふり返れば、飢饉や災害による食糧難や難民・流民がいた時代がありました。ソテツの実の毒の抜き方、トチやドングリ類などを手間ひまかけて食用にする知恵などがしっかりと伝承されていたことに驚きます。
今、私たちは次々と新しい知識を手に入れている代わりに、無意識に多くのものを落としていってます。この先もずっと、彼岸花の球根で命をつなぐことなどありませんように。
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