連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(18)
かざりえみこ
2005年3月20日
杉と人間を見つめて
杉花粉と一緒に杉花粉に関する情報も飛び回っています。みなさんは花粉症いかがですか?
杉が育って花が咲いて花粉を出す。植物なら当たり前のこと。それを、花粉症の原因である杉を早急に全面伐採せよとか、無花粉杉の普及こそが先だとか、花粉症の特効薬はこれに限る、などという意見に接するたびに、人間ていろんなことを思いつくなー、せいては事をし損じる、とつぶやいています。 私は日本3大美林と呼ばれる中のひとつ、秋田で成長し、ずいぶん杉の恩恵をこうむった者として、杉のことを考えてみました。
2003年10月号のこの「地球を見つめて」で、ケヤキより、松より、樹木の葉による酸素供給量は杉が最高であることに触れました。 日本の森林面積は国土の67%、そのうち杉林の面積は全国の森林の18%、それは国土の12%に当たるそうです。そこでどれだけ大量の酸素が作られているか想像してみてください。
森林は土砂崩壊の防止(国土保全)、水源涵養、酸素の供給、地球温暖化の防止、レクリエーションの場を提供など、この経済効果だけでもひとつの都道府県で年に数千億円あるとか。一方で近年、森林荒廃による災害、たとえば山崩れや水害などの被害額もたいへんなものです。
戦前、戦中に森林が乱伐され(木材が強制的に国に供出された)、敗戦当時は各地の美林が坊主山だったとか。そこで林野庁の指導で急遽植林された杉は、将来、建材として使えるしカネになる希望の星だったようです。私は両親がせっせと山に杉を植えて、手入れをするのを見て育ちました。この木が大きくなれば……、と幾度聞かされたでしょう。今のように車もなく、すべてが人手。勾配のきつい山地での労働は並大抵の苦労ではなかったはずです。今でこそ、広葉樹・落葉樹をバランス良く植林したら、という声がありますが、あの時代に植林技術が確立されていたのは杉くらいしかなく、他に選択の余地がなかったのです。
それから間もなく高度経済成長の時代になると、住宅建設に国内の木材は価格・量とも間に合わず、輸入木材に頼ることになり、その頃から林業従事者が激減。そこから現在に至る森林荒廃が始まります。下草刈りや枝打ち、間伐などの手入れがされず、密植のまま放置された杉やヒノキが、大気汚染の中での大量の花粉飛散。私には木々が助けを求めて叫んでいるように思います。
故郷で林業に関わる人たちは言います。「売るほどに赤字になる」それでも「日本の森林を守らなければいけない」と植林や手入れに日夜努力を重ねています。森林荒廃を少しでも改善の方向に向けるために、都会で暮らす私に出来ることは? 考えた結果、長年住んだ住宅の改造の際に、床と壁に杉とヒノキの間伐材を使いました。当初の予算内でできました。
さらに私のせめてもの『がんばり』として、車を持たず、食事には野菜を欠かさず、加工食品は避け、合成洗剤を使わず、などの暮らしで、家族一同、どうにか杉花粉症にはならずにすんでいます。でも、いま杉花粉症で苦しんでいる人たちに、私は何ができるか、思いつかないのがもどかしい限りです
「地球を見つめて〜なんちゃって」目次
|