連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(14)
かざりえみこ
2004年11月20日
落ち葉が消えて、消えるものは
自転車でまちなかを走っていたら、街路樹の枝を思い切りよく伐る現場に出くわしてしまいました。見てはならないものを見たような気がしました。 そこは我が家からさほど遠くない幹線道路。広い歩道に沿ってナンキンハゼのかなり大きくなった並木がずーっと続いて、私の好きな風景だったのです。
春・かわいい新芽とそのあとの新緑の豊かさ。初夏・黄緑の花房がろうそくのように立って香る。夏・ハート型の葉の繁みでセミがにぎやかなこと。さて、秋は、黄色や赤の紅葉がビル街をいっとき照らし、いつか道いっぱいに散る……はずでした。冬・殻がはぜて白い実が現れると、ヒヨドリが寄ってきて、ついばみながら呼びかう……はずでした。
なにも木の幹一本になるまで切らなくてもいいものを。はしごをかついだり、木に登ったりしている作業中の人に抗議しても、たぶん無駄だろうな、と思うと、一旦は立ち止まったのに、立ち去るしかありません。なぜ、ここまでやるのでしょう?
たとえば、
1.落ち葉が重なるととても滑りやすい。車道か歩道で命に関わる事故が起き
た?
2.落ち葉がゴミになって、掃除がたいへん。汚いとか溝が詰まるとか、人件
費がかさむという苦情が出た? 人件費の請求が来た?
3.ハゼの実や殻が散って滑る。ヒヨドリの糞がきたないから、商品が汚され
て損害をこうむった? 損害補償の請求が来た?
こうして葉っぱの一枚もない見通しがよくなった広い道路を清潔で美しいというでしょうか。そこを通る人びとは、今年は、街路樹が紅葉するぜいたくも、落ち葉のはかなさも感じることができません。足もとからはとうに土が消え、目からは紅葉が消え、耳からは小鳥の声が消えるのです。その結果、そこを行く人びとの心から消えてしまうものを考えてみてください。
「地球を見つめて〜なんちゃって」目次
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