連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(63)
かざりえみこ
2008年12月20日
甘柿とクマ
今年は夏が暑く長かったので柿が総じて糖度が高く、実も大きいらしい。確かに柿がおいしかった。くだもの党を自認する私にとって、柿はまだ店先にたくさん並んでいるから、おいしかったと言うよりも「おいしい」といいたい。
11月末に香川県の友人から3Lという富有柿をいただいた。味、形、色ともあまりにみごとなので、秋田の知人宛に数個を荷物の中に入れて送った。すぐに返事が来て「こんなにおいしくて赤くて大きい柿を初めて見た。雪国ではこんな柿はありえない」と手放しでほめていた。彼女の家には柿の木が数本あるが全て渋柿。最近では渋抜きの手間がめんどうで、珍しい間はアルコールで「さわして」食べるけれど、ほとんどは枝で鳥のえさになるそうだ。秋田県では甘柿がない。甘柿の北限は栃木県小山市あたり、柿の栽培北限は山形県北部と言われている。山形の柿は平核無(ひらたねなし)という品種で、これは収穫後にアルコールで渋抜きをする。
この秋、滋賀県湖西の柿の産地では山からクマが出没して大切な柿が荒らされたという。クマが恐くて犬の散歩も大変だったらしい。クマのニュースは、山形からも発信されている。10月28日付け河北新報によると、渋柿にはさすがのクマも近寄らないのだが、近年、名産・平核無柿の粒選りに、秋になるとアルコール入りのポリ袋をかぶせて樹上甘柿を作っているとか。ところが、昨年、クマは味を覚えてしまった。1本の木に渋と甘が混在しているのだが、渋柿には目もくれず、ポリ袋を破っては300個の甘柿全てを食べ尽くしたのだ。クマ撃退の決定打というのはないために、今年、柿農家は、ひたすら警戒につとめたそうだ。
私が子どものころには、取り残した渋柿は霜や雪にあたって、やわらかく甘くなるものだった。それぞれの木に食べ頃があって、早くやわらかくなる木もあれば、雪が降ってもまだ渋い柿があった。そんな柿は、はやばやと収穫して干し柿にするのだが、子どもはこれが気になる。まだか、まだかとひとつ内緒で味を見る。また数日してこっそりちぎる。親に見つかれば決まって叱られたも
のだ。昭和20〜30年代のことだった。
この秋、近畿の農村地帯で鈴なりの柿の木をたくさん見た。あれは人間に見放された証拠だ。人間もクマと同じで、一度「ラク」と「おいしい味」とを覚えたら、わざわざ渋柿に手間ひまを掛けたくない。そういうことで、初冬になっても柿の木が目につくことになる。
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