連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(62)
かざりえみこ
2008年11月20日
トキ 今と昔
去る11月10日の朝日新聞夕刊に、佐渡島から新潟まで海を渡った天然記念物トキの写真が載っていました。トキといえばコウノトリと並んで鳥の中でもスター、何をしてもニュースになります。翼を広げた夕刊のトキの写真は、あまりにカラフルで目を疑ったのですが、本文を読んで、識別用の塗料であること、そのおかげで行方不明中の2羽のうちの1羽と判明したことなどを納得しました。見つかってまずはよかったですね。
トキといえばニッポニアニッポンという学名からもわかるように、日本固有の鳥と言われます。それなら日本の昔話に出てくるでしょうか? キツネやタヌキ、ネズミ、カラス、ハトなどはしばしば登場するのにトキが思い浮かばないなーと、少ない知識を総動員していたところ、ひとつ、ありました。秋田民話シリーズ2『あきたの昔っこ』(あきた民話の会 文・語り、野崎文隆 文字・絵 秋田魁新報社 刊)に、『左甚五郎とダオ』が載っています。ダオとはトキのことです。
左甚五郎という見習い大工が、腹を空かせて、田植えの握り飯を乞うたところ、一丁前ないくせにと笑われて断られた。そこで怒った甚五郎はうす桃色の秋田杉のかんな屑をクルックルッと巻いて鳥の形を作り、息を吹き掛けたところ、ダオダオと鼻づまり声に鳴いて田んぼに飛んでいった。鼻づまり声なのは、甚五郎が鳥に鼻をつけるのを忘れたからだよ。これがトキの始まりで、また、別の日にもかんな屑のダオ鳥を飛ばせたものだから、植えた苗を抜かれて困った村人たちが、甚五郎にダオ鳥の追い払い方を尋ねた。答えは「あずき汁を煮て食べたらいい」だった。さっそく実行したところ、その汁の色から自分も煮られると思ったトキたちはあわてて遠くへ逃げていった。だから田植えには必ずあずき汁を煮るんだよ、というものです。
江戸時代には上級の武士にしか許されていなかった大型鳥の捕獲が、明治になって自由になるわけですから、植えたばかりの田に小動物を捕りに来て田を荒らしたトキを農民たちはこの時とばかりに捕まえたことでしょう。トキの肉は煮ると赤い色素がでて、一緒に煮た豆腐が赤くなったそうです。一方でトキの肉は、産後の乳の出がよくなる、女性の冷え性にも効く薬としても、人々は盛んに捕獲をしたそうです。明治生まれの私の祖母はうす桃色のことを『トキ色』と呼んでいました。飛んでいるトキを見たそうです。私が子どもの頃には、トキはいませんでしたが田植えのご馳走にはあずき汁がありました。トキの肉がおいしいかまずいか、今は試食することはできません。国内でトキが最後の一羽となったのは1970年のこと。それからは保護センターを作ってトキを手厚く保護していることは、みなさんもご存じですね。
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