連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(61)
かざりえみこ
2008年10月20日
金木犀(きんもくせい)のタネ
とうとう金木犀の季節が終わってしまいました。枝にぎっしりと花がついて、咲き誇っていたのに、もう跡形もありません。寂しいものです。毎年のことですが好きな花の季節がめぐり、また去っていくことで、心が揺れるものです。
金木犀は、小さな一輪が開きかけただけで、あたりに甘い香りがただよいます。かつて友人の家で桂花酒をご馳走になったことがあります。金木犀の大木が庭にありますので、5〜6分咲きの朝に花をざる一杯ほども摘み取って、氷砂糖と焼酎で一年寝かしたとのこと。中国の桂州が原産地という意味の「桂花酒」は、黄金の色と馥郁とした香りを閉じこめていて、飲みほすのが惜しまれました。友人は、香りの成分はこれとあれと、と教えてくれたのですが、化学に弱い私のこと、聞き慣れないカタカナは右の耳から左の耳に抜けてしまいましたし、またその成分がそもそもどういうものなのか理解できませんでした。花を乾燥させて枕に入れて寝たら、熟睡できるうえに長寿を保つまじないにもなるそうです。すこし赤みのかかった硬質の黄金色の花は、数日でポロポロと惜しげもなくこぼれ散りますから、天候をにらみながら摘むタイミングも大切な要素になるわけです。
私は、一度で良いから金木犀のタネを見てみたい、タネがほしいと長年思っていました。実際に木を観察したこともあるのですが見つかりません。それもそのはず、先日何気なくみたWikipediaで、金木犀は雌雄異株なのに、日本には江戸時代に中国から雄株しか入って来なかったために花が咲いても結実しない、とありました。今まで知らなかったとはいえ、知ったばかりに、楽しみがひとつ消えて残念な気がします。
ところで、金木犀といえば即、トイレの芳香剤を連想するので、あの花は嫌いという人がかなりいるのには驚きます。これは、私が出会った人たちから聞いてみた結果です。そういえば、匂い、香りに対する流行ってあるものですね。一時は強烈な芳香剤で、忌み嫌うもののにおい、たとえばトイレや部屋にこもるたばこ、玄関の履き物、ペットなどのイヤなにおいを紛らわそうとしたようですが、最近はにおいでごまかさないなどとうたって、消臭剤というのが多くの消費者の支持を得ているようです。
なにはともあれ、年に一度の金木犀との出会いは、この秋もうれしいものでした。
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