連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(60)
かざりえみこ
2008年9月20日
それでも生レバーを食べますか?
最近のメディアでは、食の安全に関する報道がない日がありません。業者、産地、流通、加工、調理法など、あらゆるところで安全が脅かされている事態に、消費者として無関心でいるわけにはいきません。安全なものを口にしたいのは本能でしょうか。私は、数ヶ月前に体調を崩しました。血液検査の結果、肝臓の異常な数値が問題になりました。医師は開口一番「生肉・生レバーを食べませんでしたか」と聞きました。私「イイエ」。すると「生魚や生ガキを食べませんでしたか」これも「イイエ」。やがて数日後に原因がわかりましたし、健康も回復しましたが、私がいまだかつて一度も口にしたことのない「生肉・生レバーは?」と聞かれたことがずっと引っかかっていました。
夏の間、新聞は高校野球とオリンピックばっかり。私はスポーツが苦手ですので、サラリと流し、意識して食中毒の記事をさがしたところ、かなりの頻度で出ているのです。O157など腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ菌などによるおそろしい食中毒ばかりか、急性肝炎の原因にもなるという生肉が普通に食べられていることを知りました。これらの菌は、健康な牛や鶏の腸内、また牛の肝臓には普通に存在するものだそうです。インターネットを見て初めて知りました。それなら食中毒の記事はもっとデカデカと載せて注意を促すべきだと思っていたところ、8月22日朝日新聞朝刊・私の視点・というコラムに、藤井 潤九州大学准教授(細菌学)が『食の安全 牛レバーの生食、危険伝えよ』と題して論文を発表しています。新聞社ってオリンピックに浮かれてばかりじゃないのねと、そのタイミングの良さを評価しました。
この論文によれば、飲食店で幼児から老人までもが平気で牛生レバーやユッケを食べるのは、細菌学の専門家から見れば自殺行為に映るとのこと。96年に厚生労働省は牛と馬の肉の生食に関する衛生基準を定めたのだが、強制力がないので、多くの飲食店はいまも加熱用の肉を生で客に出しているのだそうです。ここで驚いていたら、まだ怖いことが書いてありました。07年度に全国の「と畜場」から出荷された生食用の牛レバーはゼロというのです。
私はさっそくこの論文をコピーして数人の知り合いに配りました。みな一様にびっくりするところまでは想像通りだったのですが、中には「今までどないもなかったんやし、焼き肉店でユッケやレバ刺し食べるんが楽しみやねんで。あんたも堅いこと言わんと一回食べてみー。おいしいから」という人もいて、食文化と食の安全は別ものであることも、ある種の感動と共に実感しました。飲食店は加熱用レバーの注文があるからといって、生食用に提供するようなことはこの際やめてほしいです。食中毒は本当に怖いものなのです。
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