連載エッセイ
「地球を見つめて〜なんちゃって」(59)
かざりえみこ
2008年8月20日
畑につるした風鈴
お盆の墓参りに、秋田へ行ってきました。そこで見たのは、少子高齢化がさらに進んでこの先どうしたらいいかわからないと嘆く人びとの姿でした。先祖伝来の土地や敗戦後の農地解放で手に入れた農地を前に、もはや息切れ寸前、あるいはとうに閉塞状態に陥ったまま、どうにか国民年金で暮らしているのです。それでも、人間って強いなーという光景にも出会いました。
奥羽山脈までは行かず、ゆるやかな出羽丘陵に囲まれた豊かな農村のはずでした。かつては山菜を採り、たきぎを拾い、花や木イチゴを採ったなだらかな里山が連なっています。ところがあの里山が目に見える勢いで、耕作放棄の農地を浸食し、かろうじて自家用野菜を作っている小さくなった畑をさらにおびやかしているのです。カモシカの食害のことは以前にもこの欄でふれましたので、記憶しておられる方もあるかと思います。今はそれに加えてタヌキ、クマ、さらにハクビシンという聞き慣れない外来種の動物まで我が物顔で出没し、収穫物を荒らしていました。その畑に案内してもらいました。収穫前の枝豆をちぎって食べて、殻をそこら中に散らかしているのはハクビシンのしわざとか。さらにトウモロコシを根元で引き倒し、実を食べているのです。そのあとにカラスがやってきて、食べちらかしを丁寧についばんでいたそうです。食べ殻が散乱していました。
畑の周囲にポールを打ち立て、ネットを張り巡らしても、上から飛び越したり、下からもぐったりして侵入する敵は、人間の知恵を笑っているようです。ある人は黒い布を裂いて吊し、またある人はキラキラと光るテープを吊り、孫がくれたという不要になったCDを何枚も吊り下げていました。ただし効果があるのはほんの数日間のみ。あとは元の木阿弥らしいのですが、手をこまぬいて見ているよりはいいというのです。
私を案内してくれた女性は、それでもなお諦めずに、今年は百円ショップでプラスチック製の風鈴を数個買ってきたそうです。ポールに確かに吊してありました。風の吹く日は鳴り続けて効き目があるそうですが、風のない夜はダメ。そこでまた考えて百円ショップからナフタリンを買ってきたとか。洋服ダンス用吊り下げタイプのナフタリンが畑のまわりで安物のにおいをさせて揺れていました。これがいちばん効いたみたいだよ、と笑っていました。たしかにヘンな光景です。私も笑ってしまいましたが、ホント、笑ってる場合ではないのです。彼女は「いつも、敵を追う作戦を考えている。呆けているヒマがない」と笑って私の手に赤くなりかけのトマトを握らせてくれました。ヤツらにやられる前に採ったらええべ、と大きな声で笑ったら、チリリンと風鈴が鳴りました。
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